『信者一億人 法輪功の正体 最高指導者李洪志直撃インタビュー』

角間隆

小学館月刊総合文庫


 本書は、気功集団・法輪功を扱った本です。タイトルをフルに書くと『信者一億人 法輪功の正体 最高指導者李洪志直撃インタビュー』、帯には「いま江沢民が最も恐れる男」とあります。

 今年四月、北京の党幹部らの住宅街周辺で大規模な座り込みが発生しました。彼らの主張は、法輪功に対する政府の圧力をやめろということ。世界中に報道されたこの事件を通じて、私を含め、多くの人が初めて法輪功の存在を知ることになりました。

 私は学生時代に宗教学を専攻しており、今でも宗教トピックは意識的に目を通すようにしています。特にナマモノ感覚のある新宗教ネタは強い関心の対象なのですけれど、自称とはいえ信者一億人を擁する教団を知らなかったことで、自分のアンテナが錆び付いてしまっているのを思い知らされました。なもので法輪功についての本を漠然と探していた時に、新刊の本書を見つけた次第。

 第一章は、中国政府による法輪功書籍の焚書シーンから始まります。ふむふと読み続けるのですが、話題は法輪功自体のことよりも江沢民体制がいかになりふり構わぬ弾圧をしているかに終始。第二章、第三章に至っては、邪悪な江沢民が易姓革命(徳のない支配者が天命によって人民にその座を逐われるという中国古来の思想)を恐れて法輪功弾圧をしているのだとの解説にページを割きます。第四章以降でようやく李洪志のライフヒストリーと法輪功の思想の紹介がなされるのですが、それでも端々に「中国政府の権謀術数と法輪功の清廉」が対比的に描かれます。

 「李洪志には、生まれながらにしてある種の霊能力が備わっていたというこも、あながち否定できない事実のようだ」(83頁)なんて安易に書いていることから、著者自身法輪功の信者なのかなとも考えたのですが、教義の紹介がおざなりなこと、李洪志へのインタビュー内容が斜に構えたり焚きつけたりする一種無礼なものであること(もっとも問答全体は、李洪志の篤実穏健な思想を浮き彫りにする結果となり、かえってなんだか出来レースのように見えなくもないのだけれど)を考えると違うようです。本書に通底するのは、「江沢民憎し」のどろどろした描写。結局著者は、法輪功のことを書きたかったのではなく、いかに現代中国の政治体制が禍々しいものであるかという呪詛を連ねたかったのだというのが、読後の印象でした。

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 ある具体的事象を取り上げながら実質的にその背景を論究する手法は、ごくっとうなことです。タイトルと内容との整合性が取れていないのは呆れますが、まあ商業上の理由もあるのでしょう、目をつむっても構いません。しかし、ルポルタージュとしての志の低さには、むかっ腹が立ちますね。

 例えば、李洪志の拉致・暗殺指令が出ていると「囁かれている」なんて曖昧な伝聞情報に立脚していること(実際にはあり得ることかも知れないけれど、誠実なルポルタージュなら裏付けを示すべきで、それを確認した気配がまったくない)。例えば、法輪功の思想を示すのに教典からの引用抄録で済ませていること(ルポライターとして読者に提供すべき、教義を把握し価値付ける視点の構築を放棄している。オウム事件当時に教団の意見を垂れ流しにしたマスメディアの行為への反省がない)。例えば、ウーアルカイシやユン・チアンといった改革派著名人の言葉を長々と転載しながら、著者自身のインタビューによるものなのか何らかの著作からの引用なのかソースがまったく示されていないこと(情報のソースを明記することはルポルタージュの基本。引用の長さも度を超えているし、その内容は著者自身が繰り返し述べてきた中国現政府批判を補強するだけのもので、引用の意味がない。そんなことなら自らの言葉で語れ)。例えば、中国政府に対して暴力的な反発は絶対にしないと述べる李洪志に対して、弟子達が反政府運動に立ち上がるべきだと焚きつけること(法輪功の組織力を評価し、中国民主改革を期待すること自体はいい。しかし、半ば揶揄的ともいえる書き方は無礼だし、ましてや李洪志が改革運動に立ち上がらなかったら『「やはり彼(李洪志)では役不足であったか……」とばかり、潮の引くが如くにみんな一斉に離れていくかもしれない』(212頁)と書くに至っては、あまりにも身勝手だ。しかも「役不足」という言葉の使い方が間違ってるし(^-^;))。

 一番笑ったのは、「驚くべきことに、法輪功のメンバーと一度でも交信したとがあるパソコンが次から次へと突如フリーズしたり、ブラックアウトしたりして使いものにならなくなるといった怪事件が続いている」(38頁)として、中国諜報機関によるウィルス謀略説を何の検証もなく載せていること。それって、WinかMacか知らないけれど、単にシステムが不安定になってるだけじゃあ……(-_-;。ウィルスかどうかなんて専門家に見せれば検証は容易だろうし、そもそも国家組織が、陰湿なパソコンオタクみたいな嫌がらせをしてどーすんの。ましてや、「赤の他人にまでこのような攻撃を平然と仕掛ける連中だから、いつ暗殺団を差し向けてくるかわかったものではない」(同頁、抄録)って……被害妄想に基づく論理の飛躍は、いやはや、ほとんどトンデモ本の域に達してますね。

 著者紹介を見ると、東大卒→NHK入局→コロンビア大学留学→独立と華々い経歴。でも、表現者であるならばもっとも誇るべき部分であろう独立後の業績には何も触れられていません。内容がボロだと、こんなところにもケチをつけたくなってしまいます。

(初出:ISIZE BOOK 1999年10月)

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